引込ひっこみ)” の例文
西類子にしるいこ九郎兵衛などとおなじように、武士から町人になった、いわゆる引込ひっこみ町人で、七十歳で死ぬその年の秋まで、舵場のやぐらに突っ立ち
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何を苦しんでか外部の顔のために進取の気象をうばわれ、いたずらに卑屈ひくつ引込ひっこみ勝ちになろう、と思えば心も晴々しくなって来る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
精米所では、東京風のひんのいいかみさんが、家に引込ひっこみきりで、浜屋の後家ごけに産れた主人の男の子と、自分に産れた二人の女の子供の世話をしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自然引込ひっこみ思案で、一にとじこもって本を読んでいる様な時間が多く、それも、書斎では気が散っていけないと申し、裏に建っていました土蔵の二階へあがって
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その断崖だんがいからなかば宙に乗出した危石の上につかつかと老人は駈上り、振返ふりかえって紀昌に言う。どうじゃ。この石の上で先刻の業を今一度見せてくれぬか。今更引込ひっこみもならぬ。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
こうなって来ると、何んとか見得を切らなければ花道の引込ひっこみが付かない。しかしこの場の敗北は散々の体為ていたらく、いかんとも為様しようがないので、黙って引込むにしかずと考えた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「榊君と言えば、先生も引込ひっこみきりか……あれで、叔父さん、榊君の遊び方と私の遊び方とは全然まるっきり違うんです……先生の恋には、選択は無い。非常に物慾のさかんな人なんですネ……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つい/\ねえ貴方種々いろ/\な事があって、申すにも申されぬことがございまして、小石川へお引込ひっこみになって、何もも御存じでありましょうが、此の節のお身の上、実においとしい事でございますが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一般の健康状態はさてき、ある局部が不良なるために卑屈ひくつとなり引込ひっこみ勝ちとなり、憂欝ゆううつにに沈む傾向がありはせぬか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それが二十歳前後になると、処女も及ばぬように引込ひっこみ勝ちになり、人の前に出るをきらい、人に顔見られるのをおそれた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)