引歪ひきゆが)” の例文
広間の燈影ひかげは入口に立てる三人みたりの姿をあざやかに照せり。色白のちひさき内儀の口はかんの為に引歪ひきゆがみて、その夫の額際ひたひぎはより赭禿あかはげたる頭顱つむりなめらかに光れり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お利榮に取つては、此若くて美しくて、惱ましくさへあるお安の存在は、相當不愉快なものらしく、斯う話し乍らも、みにくい顏が異樣に引歪ひきゆがみます。
皆血相の変った引歪ひきゆがんだ顔ばかりで、醜態、狼狽、叫喚、大叫喚の活地獄いきじごくだ。その上から非常汽笛が真白く、モノスゴク、途切とぎれ途切れに鳴り響くのだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其を聞く度に、高柳は不快らしい顔付。ふゝむと鼻の先で笑つて、嘲つたやうに口唇を引歪ひきゆがめた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
辰五郎の驚きは、次第に深刻に恐怖と変って、やがて三十過ぎの立派な顔が、恐ろしい苦悩に引歪ひきゆがめられるのでした。
やっと下の方の片隅だけ引歪ひきゆがめる事が出来たが、それ以上は人間の力で引抜けそうになかった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は堪へざらんやうににがりたる口元を引歪ひきゆがめて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
辰五郎の驚きは、次第に深刻に恐怖と變つて、やがて三十過ぎの立派な顏が、恐ろしい苦惱に引歪ひきゆがめられるのでした。
名誉や金銭に縛られて心にもない妥協をしたり苟合こうごうしたり、腐敗したり、堕落したりして、純真な恋を踏みにじったり、引歪ひきゆがめたり、売物買物にしたりする紳士淑女たちの所謂いわゆる
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
赤い灯に照された方は、輕い苦惱に引歪ひきゆがんで、少し熱を帶びたやうに見えると、青い月に照された方は、眞珠色に光つて、深沈しんちんとしてすべての情熱がよどんで見えます。
もちろん一人残らず顔を引歪ひきゆがめていた。その顔があとからあとから引続いて来て、ギクギクと声を立てながら父の顔に手を合わせて行く姿を見送っているうちに、次第次第に私の手がわなないて来た。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
左右から取すがるのは、十六、七の可愛らしい娘——妹のおとりといふ、揉みくちやにされたやうな悲歎の姿と、許婚の新六郎といふ、嗚咽をえつに端正な顏を引歪ひきゆがめた、二十二、三の男でした。
その背部に施してある刺青の中で、普通よりも引歪ひきゆがめられている部分を、直線で連絡してみると一つの旧式要塞の図になっていて、星は望楼、花は砲台、雲は森林として配置されている事が判明した。
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お六はみにくい顏を引歪ひきゆがめて、聲を殺して泣くのです。
お六はみにくい顔を引歪ひきゆがめて、声を殺して泣くのです。
綺麗な顏を引歪ひきゆがめて爭ふ捨吉。