引放ひきはな)” の例文
大勢が力をあわせて、無理に引放ひきはなそうとしたが、お葉の拳は決して開かなかった。彼女かれは黙って冬子の髪を掴んでいるのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふすまを明けると六畳の間には蒲団が引放ひきはなしになっていて、掛蒲団は床の間の方へと跳ねのけられ、白い上敷シイツ或処あるところにはいやに小襞こじわが沢山よっていた。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
同書には「面白の駒」と渾名あだなせられた兵部少輔ひょうぶのすけについて、「首いと長うて顔つき駒のやうにて鼻のいらゝぎたる事かぎりなし。ひゝといななきて引放ひきはなれていぬべき顔したり」
駒のいななき (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
引放ひきはなたんとするに、母はげしくすまいて、屈する気色けしきなければ、止むを得ずして殺しぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
享保きやうほ二丁酉年五月十八日南町奉行大岡越前守殿白洲へ一件の者一同呼出され一々呼込になりしが縁側えんがはには本多長門守殿留守居始め郡奉行代官等今度吟味掛りの者ども白洲右の方に九郎兵衞夫婦左の方には藤八お節少し引放ひきはなれて本繩ほんなは足枷あしほだに掛り九助平伏す時に大岡越前守殿本多長門守家來けらいと呼れ九郎兵衞が願書を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「これ、馬鹿るでねえ。放さねえか。」と、七兵衛は無理にその手を引放ひきはなそうとしたが、お葉の握った拳はちっともゆるまなかった。彼女かれは冬子の前髪を掴んだままで、じっ対手あいての顔を睨んでいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)