幽囚ゆうしゅう)” の例文
中にはさんでいく一ちょう鎖駕籠くさりかごは——まさしく、桑名くわな羽柴秀吉はしばひでよしへおくらんとする貴人きじん僧形そうぎょう武田勝頼たけだかつより幽囚ゆうしゅうされているものと見られる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これらの数知れぬ慾望はどうなるかというと、我々みずから無意識界へ幽囚ゆうしゅうしてしまうのだ。つまり、忘れてしまうのだが。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
階下の一室は昔しオルター・ロリーが幽囚ゆうしゅうの際万国史ばんこくしそうを記した所だと云い伝えられている。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それにつけ、宋江は、いまなお、大牢のうちに幽囚ゆうしゅうされているであろう盧員外ろいんがいと石秀の身を思いやって、北京ほっけいの空のみが、たえず胸のいたみであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はかりをもって、兵を禁闕きんけつに入れ、帝を幽囚ゆうしゅうして、自分をもここへおびきよせたものでないとはいえない。
なぜといえば官兵衛は、主命をおびて、伊丹城いたみじょうおもむき、村重が卑劣ひれつなる奸計かんけいに陥ちて幽囚ゆうしゅうされたもの。正邪な歴々、天下の衆目、誰か彼を曲として憎まぬものあろうや。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ために、皮膚病はえても、心のかびはまた彼の心を腐らしてきた。彼はほとんど門を閉じた幽囚ゆうしゅうの人も同様に、冷んやりした邸の奥に、毎日、なすこともなく、書物ばかり読み耽っていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)