ぼうし)” の例文
と、ひどく礼を言った後で、きれいな着物一かさねてんぼうしと履物を添えてくれ、孔生が手足を洗い髪に櫛を入れて着更えをするのを待って、酒を出してめしをすすめた。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
双眼鏡で覗くと果して人であった、而も洋服を着た者が二人迄交っている。この三、四日人影を見なかった私達は、物珍らしさにぼうしを振ったり手拭を振ったりして、さかんに呶鳴った。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
目の鋭い腰の細い、あぶらぎったぼうしと着物を着て、黒い前垂まえだれをしていたが、その破れは所どころ白い布でつぎはぎしてあった。若い男は手を額のあたりで組みあわして、どこから来たかと訊いた。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
男のが先へ立って駈出して来る事だろう、と思いながら、主税がぼうしを脱いで、あまあがりの松のわきを、緑の露に袖擦りながら、格子をくぐって、土間へ入ると、天井には駕籠かごでも釣ってありそうな
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)