小舷こべり)” の例文
その間をば一同を載せた舟が小舷こべりさざなみを立てつつ通抜とおりぬけて行く時、中にはあわてふためいて障子の隙間すきまをば閉切しめきるものさえあった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
広い河ではあるが、船の行き馴れている路はいつも決まっているので、両方の船は小舷こべりが摺れ合うほどに近寄って通る。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さいはひに一人ひとりも怪我はしなかつたけれど、借りたボオトの小舷こべりをば散々にこはしてしまつた上にかいを一本折つてしまつた。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
幸いに一人も怪我けがはしなかったけれど、借りたボオトの小舷こべりをば散々にこわしてしまった上にかいを一本折ってしまった。
小舷こべりを打つ水の音が俄に耳立ち、船もまた動揺し出したので、船窓から外を見たが、窓際の席には人がいるのみならず、その硝子板ガラスいたは汚れきってすり硝子のように曇っている。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
吹けよ河風上れよすだれ三下さんさがりにめやうたえの豪遊を競うものはまれであったが、その代り小舷こべり繻子しゅす空解そらどけも締めぬが無理かと簾おろした低唱浅酌ていしょうせんしゃく小舟こぶねはかえっていつにも増して多いように思われた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)