小汚こぎたな)” の例文
「あの爺さんしようがないんですよ。それに小汚こぎたなくてしようがありませんや。」肴屋のわかしゅは後で台所口へ来て、そのことを話した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小汚こぎたない六畳の部屋で、せいせい云つて寝てゐる険相けんさうな顔付を考へると、何にもかも嫌になつてしまふ。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
と腹の中でめながら、なお四辺を見て行くと、百姓家の小汚こぎたな孤屋こおくの背戸にしいまじりにくりだか何だか三四本えてる樹蔭こかげに、黄色い四べんの花の咲いている、毛の生えたくきから
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
生憎あいにくと火鉢は私の部屋には無かったけれど、今迄敷いていた赤ゲットを、四ツに畳んだのを中央まんなかへ持出して、其でも裏反うらがえしにして勧めると、遠慮するのか、それとも小汚こぎたないと思ったのか
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
怪しみながら床を出て高窓の戸を引開けて見ると驚いた、その小汚こぎたない窓の真正面にそれこそ玲瓏を極めた大富士の姿が曙のあやを帯びて如何にも光でも発するものの様に聳えているのである。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
とにかく貰って見給え、同じ働くにも、どんなに張合いがあって面白いか。あの女なら請け合って桝新ますしんのおかまを興しますと、小汚こぎたな歯齦はぐきあわめて説き勧めた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)