寿詞ヨゴト)” の例文
旧字:壽詞
寿詞ヨゴトを伝承したものは、国々家々をつた者の後なる氏々の族長であつた。其由は、日本紀の飛鳥朝になると、明らかになつて来る。
日本文学の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
さうして別に、寿詞ヨゴトに注意を向けた人は、祝詞の古いものだと称してゐた。勿論祝詞に宣下・奏上両方面のあることは、固よりである。
日本文学の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
乞食者詠を見ても知れる様に、寿詞ヨゴトの様式の上に、劇的な構造や、抒情的な発想の加つて来たのは、語部の物語の影響に外ならぬのである。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
勿論、前住民の服従を誓ふ形式の寿詞ヨゴト奏上を以て、海人・山人のことほぎ(祝福)みつぎの起りと考へる事も出来ますが、其は第二次の形です。
翁の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
かうして見ると、いはひごとがのりとに対するものゝやうに聞えるが、寿詞ヨゴトこそ、のりとの対照に立つべきものであつた。
日本文学の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
其が即、寿詞ヨゴトと称するものだ。後世まで考へられた意味では、主上に対して、服従を新に誓ひ、其生命並びに富を寿するものと考へられてゐた。
其意味に於いて、延喜式の祝詞は誤解を重ねて、寿詞ヨゴトと称しながら、鎮護詞の形をとり、更に祝詞の中にこめられてゐる。
語部カタリベの生活を話す前に寿詞ヨゴトの末、語部の物語との交渉の深まつて来た時代のほかひの様子を述べなければならなくなつた。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
かうして、日本に出来て来た口頭の文章が、古いことばで言ふと寿詞ヨゴトである。寿詞といふのは、只今の祝詞ノリトの本の形である。
万葉集の解題 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
よごとは、臣従を誓ふ者が、其氏族の守護霊を捧げて、長者の齢を祝福する意味の詞であつた。だから、寿詞ヨゴトは、実は齢詞ヨゴトである。宣があれば奏が伴ふ。
高御座 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
新嘗を行ふ為には、原則としては、新嘗屋を作るのであるが、後世は多く旧屋を以て新室の如く見なし、寿詞ヨゴトが其を、新しく変化せしめる効果あるものとした。
日本文学の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
此と、斎部祝詞と云はれてゐるものとは、全く別であつて、斎部のものは、祝詞では無い、寿詞ヨゴトである。
呪詞及び祝詞 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
此祝詞は、今在る祝詞の中、まづ一等古いもので、齢言ヨゴト以外の寿詞ヨゴトの俤を示すものではなからうかと思ふ。但、天つ祝詞以外の文句は、時代は遥かに遅れて居る。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
かういふわけで、我が国の古代に於ては、寿詞ヨゴトを唱へて、服従を誓ふ事は、即其魂を捧げる事であつたが、此魂と、神との区別は、夙くから混同せられて了うてゐる。
神道に現れた民族論理 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
早くとも、平安に入つて数十年後に、書き物の形をとり、正確には、百数十年たつてはじめて公式に記録せられたはずの寿詞ヨゴトであつたことが、注意せられてゐなかつた。
水の女 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
早くとも、平安に入って数十年後に、書き物の形をとり、正確には、百数十年たってはじめて公式に記録せられたはずの寿詞ヨゴトであったことが、注意せられていなかった。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
初春朝賀の式が行はれる時に、天皇が祝詞を下されると、群臣が其に御答へとして、寿詞ヨゴトを奉る。此は、天皇のを祝福すると同時に、服従の誓ひを新しくすることである。
古代人の思考の基礎 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
だから、海人が服従の誓約なる寿詞ヨゴトや御贄を奉るのは、山の神人の影響を更に受けたのです。
翁の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
律令の外にも、宣命・寿詞ヨゴトの新作は、此よごとつくりのつかさの為事であつたらしい。
万葉集研究 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
中臣氏のは其と違つて、水取りの本縁を述べた「中臣寿詞ヨゴト」を伝へて居た。
(イ)のほくは寿詞ヨゴトであり、(ロ)のほくは、宮廷では、のりと——斎部祝詞の類——に含めてよごとと区別して居た。詔旨ノリト寿詞ヨゴトとの間に、天神に仮託した他の神——とこよ神の変形。
寿詞ヨゴト・祝詞に、植物や、鉱物によつて、長寿を予祝する修辞法の発達して居るのも、単純な譬喩でなく、やはり大山祇神オホヤマツミノカミがした様なとうてむによるまじなひから起つて居るのかも知れない。
信太妻の話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
さうして、他の寿詞ヨゴトに比べて、神の動作や、稍複雑な副演を伴ふ事が特徴になつてゐた。此言寿に伴ふ副演の所作が発達して来た為、ほく事をすると言ふ意の再活用ほかふと言ふ語が出来た。
其で、文献には、寿詞ヨゴト——奏寿詞の義——を以て、宛て字としたのだ。
日本文学の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
この両様の呪詞が、一つは所謂祝詞と称せられるものゝ原型であり、応へる側のものが寿詞ヨゴトと称する、種族・邑落の威霊の征服者に奉ると云つた意味の寿詞——賀詞——となつて行つたのである。
此を「誄詞シヌビゴト」と言ふ。此は、寿詞ヨゴトの分れで、叙事詩の変つたものである。昔の人は、貴族が死ぬと、一年位、従者が其墓について居る。此従者の歌ふ歌が、誄詞シヌビゴトから分れて来て、挽歌となつて来る。
万葉集の解題 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
前者がほぎ歌であつて、後者は寿詞ヨゴトと称せられた。寿詞は、祝詞の古い形を言ふので、発想法から、文章の目的とする相手まで、祝詞とは違うて居る。よごとは生命の詞、即「齢詞ヨゴト」の義が元である。
叙景詩の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)