容貌かおかたち)” の例文
運わるく、そのなかに、伊那丸の容貌かおかたちを見おぼえていた者があった。かれらは、おもわぬ大獲物おおえものに、武者むしゃぶるいをきんじえない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに映った自分の容貌かおかたちを見て、何かの記憶をび起そうとした。……しかし、それは何にもならなかった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
容儀は堂々たるべく正々せいせいたるべしとの家訓は受けておりましても、容貌かおかたちが美しいとかあでやかであるとか、すべてそうしたことは人の口からも聴かなければ
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
自分は老年の今日までもその美しい容貌かおかたち、その優美なすずしい目、その光沢つやのある緑のびんずら、なかんずくおとなしやかな、奥ゆかしい、そのたおやかな花の姿を
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
そして珏がだんだん大きくなったところで、容貌かおかたちが人にすぐれているうえに、りこうで文章が上手であったから、玉はますますそれを可愛がった。そしていつもいった。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
今朝東京なる本郷病院へ、呼吸いき絶々たえだえ駈込かけこみて、玄関に着くとそのまま、打倒れて絶息したる男あり。年は二十二三にして、扮装みなりからず、容貌かおかたちいたくやつれたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうち、あの娘の容貌かおかたちの清らかに美しくなって行くこと、それはもう云うに云われぬほどで、そのために家の中は暗いところもなく、いつの日も光り輝いているようであった。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
日野さんのその坊っちゃんという人の容貌かおかたち背恰好せいかっこうを話して戴けまいかという私の頼みに応じて、茂十さんの話してくれたのは、私の逢ったあの少年と寸分の違いもない背恰好容貌
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
夫婦は永くなるほど容貌かおかたち気質まで似て来るものといえるが、なるほど近ごろの夫人が物ごし格好、その濃き眉毛まゆげをひくひく動かして、煙管きせる片手に相手の顔をじっと見る様子より、起居たちいの荒さ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
お竹の美しさはその容貌かおかたちばかりでなく、その心栄えにあったことは
それにどんなに容貌かおかたちが美しくても、気象が無下に卑しい時は、どうも風采ふうさいのないものであるが、娘は見るからがその風采の中に温良貞淑の風を存していて、どことなく気高く
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)