家居かきょ)” の例文
むなく帰省して見れば、両親は交々こもごも身の老衰を打ちかこち、家事を監督する気力もせたれば何とぞ家居かきょして万事を処理しくれよという。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
淀屋橋筋の春琴の家の隣近所に家居かきょする者はうららかな春の日に盲目の女師匠が物干台に立ち出でて雲雀を空にげているのを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昨日まではとかく家をそとなる楽しみのみ追ひ究めんとしける放蕩のここに漸く家居かきょたのしみを知り父なきのちの家を守る身となりしこそうれしけれ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
大阪郊外池田山のふもと家居かきょした彼女は、汽車に乗っただけで、郊外から郊外へ移って来たほど気が軽かった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その柳生谷は、山村とよぶには、どこか人智の光があり、家居かきょ風俗ふうぞくにも整いがあった。といって、町と見るには、戸数が少なくて、浮華な色がちっともない。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは有産的貴族社会であって、仕事にたいして趣味をもち、高尚ではあるがしかし狭い祗虔しけん的な教養をもっていて、自己の卓越と自分の町の卓越とを平然と信じ込んで、家居かきょ的な孤立を喜んでいた。
箪笥たんす等の日本的家居かきょ及び什器じゅうきに対して、ごうも親密なる特殊の情趣を催したる事なし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
訥升とつしょう沢村宗十郎の妻となって——今の宗十郎の養母——晩年をやすらかにったが、これまた浅草今戸橋のかたわらに、手びろく家居かきょして、文人墨客ぶんじんぼっかくに貴紳に、なくてならぬ酒亭の女主人であった。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
箪笥たんす等の日本的家居かきょ及び什器じゅうきに対して、ごうも親密なる特殊の情趣を催したる事なし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
色彩のみょう相俟あいまつてゴンクウルは歌麿が立花りっか音曲おんぎょく裁縫化粧行水ぎょうずい等日本の婦女が家居かきょ日常の姿態を描きてこれに一種いふべからざる優美の情とまた躍然たる気魄きはくを添へ得たる事を絶賞したり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)