奥津城おくつき)” の例文
旧字:奧津城
「——われも見つ人にも告げん葛飾の、真間の手児奈の奥津城おくつきどころ——お前様にはこの和歌をご存知でしょうな」「はい」
真間の手古奈 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そが奥津城おくつきどころに到りて「おくり火」焚くなりと教へられし一夜をわれは牧島村長の小高きをかの上の家に宿りたりし。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
驚いたことに、この墓じるしはグリゴリイの仕業しわざであった。これは彼が自腹を切って、気の毒な『憑かれた女』の奥津城おくつきの上に建てたものである。
又、或は無実の汚名をきせられて地下に眠って居る道子の為にも、奥津城おくつきに花の絶えぬように心がけて居ります。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
饅頭まんじゅうのかたちに土を盛り上げた新しいつか、「青山半蔵之奥津城おくつき」とでもした平田門人らしい白木の墓標なぞが、もはやそこに集まるものの胸に浮かんだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
境内には壇浦だんのうらに沈んだ平家一門の墓があった。大木の下に小さな自然石の立ち並んだ様は如何にも没落した人達の奥津城おくつきらしく、何とはなしに哀れを誘う。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ただ奥津城おくつき(墓)があるからだというのでしょう、恵林寺さまの、まことの御遺骸をおさめた奥津城が……そのために、ところの者が命をけて守るのだと」
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
才色一代をおおったその日野涼子の奥津城おくつきであり、あの侘しい少年はこの薄命な音楽家の忘れ形見であると知っては、私も世のはかなさに言い知れず打たれずにはいられなかったのであった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
迎火をからは、寺々の卵塔は申すまでもない、野に山に、標石しめいし奥津城おくつきのある処、昔を今に思い出したような無縁墓、古塚までも、かすかなしめっぽいこけの花が、ちらちらと切燈籠きりこに咲いて
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親しい我が子の奥津城おくつきに、流す涙ははてもない!
天眼てんがんなほも奥津城おくつきにカインを眺む。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
断ち切りて奥津城おくつきの底深く墜しつ。
冷やかなる奥津城おくつき
奥津城おくつきが皆震う。