奈何いかが)” の例文
奈何いかがいたし候や。あるいは御許の心変りしやとも考え、くては定めし夫に対しても礼義崩れ、我儘わがままなることもなきやと、日々心痛いたし居り候。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「御得意の阪本でござい。毎度御引立難有う御座りやす。奈何いかがですか旦那、大分夜も遅うござりますぞ。精々せいぜい勉強して一泊二十五銭、いかゞでがす」
このおん前様御心底は奈何いかがに候。私存じ候には、同刻御自身の思召おぼしめしにて馬喰町へ御出被成候方宜敷おんいでなされそろかたよろしく候様存じ候。田原町たわらちょう一寸ちょっと御立寄被成候おんたちよりなされそうろう御出被成度おんいでなされたく存じ候。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一筆ひとふでしめし上げまいらせそろ。さてとや暑さきびしくそうろうところ、皆様には奈何いかが御暮しなされ候や。私よりも一向音信いたさず候えども、御許おんもとよりも御便り無之これなく候故、日々御案じ申上げ候。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「まあ、宜しいじゃ御座いませんか……もっと御緩ごゆっくりなすったら奈何いかがで御座います……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「御塩焼は奈何いかがで御座いますか。もし何でしたら、海胆うにでも御着け遊ばしたら——」
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
途次みちみち技手は私を顧みて、ある小説の中に、榛名はるなの朝の飛雲の赤色なるを記したところが有ったと記憶するが、飛雲は低い処を行くのだから、赤くなるということは奈何いかがなどと話した。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「御祈祷して御貰い成すったら奈何いかがです——きっと方角でも悪かったんでしょうよ」
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「医者にて貰ったら奈何いかがです」と言って、三吉は種夫を膝の上に乗せた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「相川さん、遅刻届は活版ずりにしてお置きなすったら、奈何いかがです」などと、小癪こしゃくなことをぬかす受付の小使までも、心の中では彼の貴い性質を尊敬して、普通の会社員と同じようには見ていない。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「房子さんは奈何いかがでいらっしゃいますか。先日一寸ちょっと御見舞に伺いました時も、大層御悪いような御様子でしたが——真実ほんとに、私は御気の毒で、房子さんの苦しむところを見ていられませんでしたよ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お豆腐のたきたては奈何いかがでごわす」などと言って、内儀さんが大丼おおどんぶりに熱い豆腐の露を盛って出す。亭主も手拭を腰にブラサゲて出て来て、自分の子息が子供相撲ずもうに弓を取った自慢話なぞを始める。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)