奇峭きしょう)” の例文
こうして急流は変じて深潭しんたんとなり、山峡の湖水となり、岩はその根を没して重畳ちょうじょう奇峭きしょうおもむきすくなからず減じてしまったと聞いた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
やはりご多分にれず単にその始まっている場所を指示した分類に属すべきものなのでありますが、それがやや群俗を抜いて奇峭きしょうである点に特色があります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼の cynic な言語挙動は始終僕に不愉快を感ぜしめるが、とにかく彼も一種の奇峭きしょうな性格である。同級の詩人が彼に贈った詩の結句は、竹窓夜静にして韓非かんぴを読むというのであった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そしてふたたび、東京とうけいさしての旅また旅をかさねてゆくうち、はからずも、ここ瓦罐寺がかんじと呼ぶ奇峭きしょう怪峰かいほうの荒れ寺に、一夜の雨露うろしのがんと立ち寄って、彼は、世にあるまじき人間のすがたを見た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その正面こそ大同電力の白い白いダム堰堤えんていである。古典的の幽邃ゆうすい奇峭きしょうとはここに変転して、近代の白と灰銀かいぎんとの一大コンクリート風景を顕現けんげんする。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
この蘇川峡のみをもってすれば、その岩相がんそう奇峭きしょうほう耶馬渓やばけい瀞八丁どろはっちょうしんの天竜峡におよばず、その水流の急なること球磨くま川にしかず、激湍げきたんはまた筑後川の或個処あるかしょにも劣るものがある。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)