太夫だゆう)” の例文
お鳥はたしなめるように、う言いながらも、幾年振りかで逢った、一座の弟太夫だゆう、あの綱渡りのうまい源吉を、世にもなつかしく眺めるのでした。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ところへ仙夢さんがこの家の主人世古せこ太夫だゆうさんを案内して来て、少時しばらくの間沼津物語に花が咲いた。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのゆえ、遊女には上﨟じょうろう風のよそおいをさせて、太夫だゆう様、此君このきみ様などともいい、客よりも上座にすえるのです。それも、一つには、客としての見識だろうと思いますがのう。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
髪かたちも妓家の風情をまなび、○でんしげ太夫だゆうの心中のうき名をうらやみ、故郷の兄弟を恥いやしむ者有り、されども流石さすが故園情こえんのじょう不堪たえずたまたま親里に帰省するあだ者成べし
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
黒瞳くろめが流れてしまうぜ、ホラ、おいらを見ねえ……東西東西! 物真似名人、トンガリ長屋のチョビ安太夫だゆう、ハッ! これは、横町の黒猫くろが、魚辰うおたつの盤台をねらって、抜き足差し足
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御新造ごしんぞ様、わたくしは余計な事を申すようでございますが、岡野おかの太夫だゆう様なぞは、以前は殿様/\と申上げたお方だが、拙宅うちへお手紙で無心をなさるとは、どのくらいの御苦労か知れません
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
太夫だゆう姿に仕立てたのを見てもわかるであろうが、それとても、そもじがいとおしく、同胞はらからとはいえねたましく、私の小娘のようにもだえ、またあるときは、鬼神のような形相ぎょうそうにもなって
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)