つちくれ)” の例文
黒焦に削れたるみきのみ短く残れる一列ひとつらの立木のかたはらに、つちくれうづたかく盛りたるは土蔵の名残なごりと踏み行けば、灰燼の熱気はいまだ冷めずして、ほのかおもてつ。貫一は前杖まへづゑいて悵然ちようぜんとしてたたずめり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
廃寺はこぼたれ、かきは破られ、墳墓は移され、残ったいしずえや欠けたつちくれが人をしてさながら古戦場を過ぐるの思いをいだかしめた時は、やがて国学者諸先輩の真意も見失われて行った時であった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ただかの美しき乙女よくこれを知るといえども、素知らぬ顔して弁解いいひらきふみを二郎が友、われに送りぬ。げに偽りという鳥の巣くうべき枝ほど怪しきはあらず、うるわしき花咲きてその実はつちくれなり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)