坐臥ざが)” の例文
鈴木春信は可憐なる年少の男女相思の図と合せて、また単に婦人が坐臥ざが平常の姿態を描きたくみに室内の光景と花卉かきとを配合せり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一家戒慎かいしんして室をきよめ、みだりに人を近づけず、しかも出入坐臥ざが飲食ともに、音もなく目にも触れなかったことは、他の多くの尊い神々も同じであった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
坐臥ざがの自由、寐返りの自由、足を伸す自由、人を訪ふ自由、集会に臨む自由、かわやに行く自由、書籍を捜索する自由、癇癪かんしゃくの起りし時腹いせに外へ出て行く自由
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
わかきより日に弥陀仏を念じ、行年四十以後、其志弥々いよいよはげしく、口に名号を唱え、心に相好そうごうを観じ、行住坐臥ざが、暫くも忘れず、造次顛沛てんぱいも必ず是に於てす、の堂舎塔廟とうびょう
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
狂馬楽はこれを師走の珍芸会の高座でくらいは演ったかもしれないが、まずまず平常は高座以外の、仲間との行住坐臥ざが、もしくは冠婚葬祭の時にのみ、もっぱら力演これ務めたのである。
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
耳の濁りという。古今に通ぜぬくせに、我意ばかり猛々たけだけしい。これを情操の濁りと申す。日々坐臥ざがの行状は、一としてきよらかなるなく、一として放恣ほうしならざるはない。これ肉体の濁りである
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金井君は自然派の小説を読むたびに、その作中の人物が、行住坐臥ざが造次顛沛てんぱい、何に就けても性欲的写象を伴うのを見て、そして批評が、それを人生を写し得たものとして認めているのを見て
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
先生には常住坐臥ざが、いささかも隙というものがありません、現にさっきも……今度こそと思ったのにやはり失敗でした、とても我々の力で先生に参ったと云わせることはできないでしょう。
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
日常坐臥ざがの生活につきまとう不公平や、自己の罪のみならず世間の罪にまで苦しめられている、ロシア庶民の謙虚な魂にとっては、聖物もしくは聖者を得て、その前にひれ伏してぬかずくこと以上の
軽暖や坐臥ざが進退も意のまゝに
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
炉の四側の家の者が坐臥ざが飲食する場所に、必ず総名のあるべきは当然で、それが佐渡のごときジロという語を知る土地でも、なお別にユリナタであったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)