土左衛門どざえもん)” の例文
琵琶湖びわこ土左衛門どざえもんになるところを、ここの神主かんぬしのやつが助けやがったんで……わたしがきたいと思ってきたところじゃありません」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
通禧らは人を呼んで、それぞれ毛布に包ませなぞして、七つの土左衛門どざえもんのために間に合わせの新規な服を取り寄せる心配までした。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
流れるもののなかに、魂まで流していれば、基督キリストの御弟子となったよりありがたい。なるほどこの調子で考えると、土左衛門どざえもん風流ふうりゅうである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(おいてけぼりになって、こんなくらいところで土左衛門どざえもんになるのか、いやだなあ、うん、もっと、頭をはたらかせて、逃げ出す道を探そう)
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「馬鹿なこと、あんな土左衛門どざえもんてあるもんか。水死人なら、もっと身体全体が浮上る筈じゃないか」誰かが反対した。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「これから土左衛門どざえもんが多いですよ」という。七割は自殺者だそうである。新聞には出ないが三原山よりは多いという。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
面倒臭くなったから、それもやめにして腹んばいになって、小説を読んだ。土左衛門どざえもんになりかかった男の心もちを、多少空想的に誇張して、面白く書いてある。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
土左衛門どざえもんですよ。」と、その女はちょっとまゆしかめるようにして答えた。啓吉は、初めからその答を予期していたので、その答から、何等の感動をも受けなかった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二日目の日中、西門から十五里の万流湖ばんりゅうこの中に一つの土左衛門どざえもんを見た人があって大騒ぎとなり、つい地保じほの耳に達し、土地の者に引揚げさせてみると、それは五十余りの男の死体で
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「親分、土左衛門どざえもんはどうしました」
僕は断固だんことして、ことわった。うっかりぬいでしまった後で、どこからか海水がどっと侵入して来たときには、僕はたちまち土左衛門どざえもんにならなくてはならない。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ミレーはミレー、余は余であるから、余は余の興味をもって、一つ風流な土左衛門どざえもんをかいて見たい。しかし思うような顔はそうたやすく心に浮んで来そうもない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なに、まだ向うの川縁かわぷちに立っているんだよ、土左衛門どざえもんでも待っているように」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土左衛門どざえもんは、こまか銘仙絣めいせんがすり単物ひとえものを身につけていた。その絣に見覚がある。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いや、酔払よっぱらいが、この堀の中に落っこって、もうすこしで土左衛門どざえもんになるところだったよ。だいぶ傷をしているらしいから、その辺の病院まではこんでくれないか」
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あッ……おい、藻じゃねえぞそれは。死骸しがいだ! オオ土左衛門どざえもんだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(いつも寝ているんですからね)顔の皮膚なんか、肥っている癖に、ひどくたるんでいて、支那人の様に無表情で、目なんか、ドロンとにごっていて、云って見れば土左衛門どざえもん見たいな感じなんですよ。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
湯のなかに浮いたまま、今度は土左衛門どざえもんさんを作って見る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なぜなれば、こっちは潜水兜せんすいかぶとなんかをからだにつけているのだ。これをとって素顔を見せたりすると、たちまちあっぷあっぷで土左衛門どざえもんと変名しなくてはならない。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)