ひと)” の例文
新字:
お光は立つて、小池の背後うしろからしわくちやになつたインバネスをがし、自分のひと羽織ばおり一所いつしよに黒塗りの衣桁いかうへ掛けた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
義雄が銘仙のひとへをあはせにすることを頼みに、近處の仕立物をする婆アさんの家へ行く時、お綱が門そとで百姓馬子から青物を買つてゐるのに注意すると、馬の背の荷には、もう、茄子なす
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
忍びて紙屑買かみくづかひには成ぬかと聞て久八しばらく考へ却つて夫こそ面白おもしろからんと紙屑買にぞなりにけり嗚呼ああ榮枯盛衰えいこせいすゐひとへに天なり命なり昨日迄は兎も角も大店の番頭支配人とも言はれし身が千種木綿ちくさもめん股引もゝひきねぎ枯葉かれはのごとくにて木綿布子ぬのこ紋皮もんぱ頭巾づきん見る影も無き形相なりふりは商賣向の身拵みごしら天秤棒てんびんぼうに紙屑かご鐵砲笊てつぱうざる
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小學校と村役場とがひとり中の村から除外された所以のものは、畢竟本村に眞の自治がなくて、或る一人の大きな男の禿頭から出る私心私情私慾の爲めに、村治を左右されてゐたからであります。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)