なき)” の例文
ぬるにも死なれざるには成けるかな、ゆるし玉へわがつまと雪にひれふし、やけたるつなにすがりつきこゑをあげてなきになきけり。
それ故にこそは母のねむりをもおどろかしたてまつれ。只々ゆるし給へと潸然さめざめなき入るを、老母いふ。一一〇牢裏らうりつながるる人は夢にもゆるさるるを見え、かつするものは夢に漿水しやうすゐを飲むといへり。
子は親を助くるの暇なく、夫は妻を救うの道なく、子を捨て、夫を見殺しに、唯身一つをさえ生きかねて、黒白も分かぬ間に悲鳴を揚げてなき叫ぶが中に、わずかに一枚の戸板に乗りて
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
さま/″\の浪言らうげんをのゝしりて家内かないくるひはしるを見て、両親ふたおや娘が丹精たんせいしたる心の内をおもひやりてなきになきけり。
さいぜんよりこゝにありつるつま子らこれを見るよりつまをつとくびかゝへ、子どもは死骸しがいにとりすがりこゑをあげてなきけり、人々もこのあはれさを見てそでをぬらさぬはなかりけり。