哥沢うたざわ)” の例文
海にむかった室で昼間の一酔いっすいに八十翁もよばれてほろよいになると、とてもよい声で、哥沢うたざわの「白酒しろざけ」を、素人しろうとにはめずらしいうたいぶりをした。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
けれども要するに、それはみんな身過ぎ世過ぎである。川竹の憂き身をかこつ哥沢うたざわの糸より細き筆の命毛いのちげ渡世とせいにする是非なさ……オット大変忘れたり。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
呂昇ろしょう大隈おおすみ加賀かが宝生ほうじょう哥沢うたざわ追分おいわけ磯節いそぶし雑多ざったなものが時々余等の耳に刹那せつな妙音みょうおんを伝える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その時分ふとした話から旧友のヨウさんも長唄ながうた哥沢うたざわ清元きよもとといろいろ道楽の揚句あげくが薗八となり既に二
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
辻新といえば、あすこのうちかしら——出入りの鳶職とびしょく——が、芝金しばきん直弟子じきでしで、哥沢うたざわの名とりだった。めっかちの、その男のつくったのが「水の音」という唄だ。自分の名の音がよみこんである——
そのそばすすけた柱にった荒神様こうじんさまのおふだなぞ、一体に汚らしく乱雑に見える周囲の道具立どうぐだて相俟あいまって、草双紙くさぞうしに見るような何という果敢はかな佗住居わびずまいの情調、また哥沢うたざわの節廻しに唄い古されたような
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)