吸筒すいづつ)” の例文
弁当にあつまった。吸筒すいづつの酒も開かれた。「関ちゃん——関ちゃん——」私の名を、——誰も呼ぶもののないのに、その人が優しく呼んだ。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吸筒すいづつが倒れる、中から水——といえば其時の命、命の綱、いやさ死期しごゆるべて呉れていようというソノ霊薬が滾々ごぼごぼと流出る。
萩原新三郎はぎわらしんざぶろう孫店まごだなに住む伴蔵ともぞうれて、柳島やなぎしま横川よこかわへ釣にっていた。それは五月の初めのことであった。新三郎は釣に往っても釣に興味はないので、吸筒すいづつの酒を飲んでいた。
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鼠股引ねずみももひきの先生は二ツ折にした手拭てぬぐいを草にいてその上へ腰を下して、銀の細箍ほそたがのかかっている杉の吸筒すいづつせんをさし直して、張紙はりこ髹猪口ぬりちょくの中は総金箔ひたはくになっているのに一盃ついで
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
山遊びの弁当には酒を入れる吸筒すいづつもついていて、吼噲こんかい蒔絵まきえがしてあった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そら吸筒すいづつ——果して水が有る——而も沢山! 吸筒すいづつ半分も有ったろうよ。やれ嬉しや、是でまず当分は水に困らぬ——死ぬ迄は困らぬのだ。やれやれ!
楽しかった……もうそこの茶店で、大人たちは一度吸筒すいづつを開いた。早や七年も前になる……梅雨晴の青い空を、流るる雲に乗るように、松並木の梢を縫って、すうすうと尾長鳥が飛んでいる。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しめた! この男のこの大きな吸筒すいづつ、これには屹度きっと水がある! けれど、取りに行かなきゃならぬ。さぞ痛むこッたろうな。えい、如何どうするもんかい、やッつけろ!