吸物椀すいものわん)” の例文
「先生も、もうそろそろおででしょう。構いませんから先へやりましょう。」と駒田はさかずきを年上の記者にさして吸物椀すいものわんふたをとる。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と、膳部ぜんぶ吸物椀すいものわんをとって、なかのしるを、部屋の白壁にパッとかけてみると、すみのように、まっ黒に変化して染まった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とお力は款待顔もてなしがおに言って、お三輪のために膳、箸、吸物椀すいものわんなぞを料理場の方から運んで来た。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かかすべからずといられてやっと受ける手頭てさきのわけもなくふるえ半ば吸物椀すいものわんの上へしの
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
中には昨夜ゆうべの会で団扇うちわの大きなのを背中に入れて帰る者もあれば、平たい大皿を懐中し吸物椀すいものわんふたたもとにする者もある。又る奴は、君達がそんな半端物はんぱものを挙げて来るのはまだつたない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして夫人の笑の性質によって、それが擯斥ひんせきされるべきものであったのかて取りたく思った。だが、かの女が夫人を凝視したとき、夫人はもう俯向うつむいて、箸で吸物椀すいものわんの中を探っていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
春慶塗胡桃脚膳くるみあしぜん二十人前、吸物椀すいものわん二十人前、などと記した古ぼけた箱が五つ六つ積み重ねてある傍に、長持のふたが開けてあって、中に一杯こまこました小箱の詰まっているのが見えていた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なるほど、少年は手に一箇の吸物椀すいものわんを持っていて、それで水の中を掻き廻していたのです。右のお椀で水の中を掻き廻して掬い上げると、鮪も鯨も入ってはいない、ただ川の中の砂がいっぱい。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だが、今夜の若者は皆つつましかった。ほんのり色に出る程度に、静かな杯を交している。各〻の膳部には、勝栗かちぐり昆布こんぶのほかに、と鳥を浮かした吸物椀すいものわんが乗っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)