名札なふだ)” の例文
中島角右衛門という名札なふだをわたくしの前に出しましたから、こっちもかたのごとくに初対面の挨拶をしていますと、槇原の旦那は待ち兼ねたように云うんです。
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あんたやちうことが、なんで分つたと思てなはる。先刻さつき大阪で。……あの荷物の名札なふだを見ましたんやがな。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私は父の名札なふだの後に見知らぬ人の名が掲げられたばかりに、もう一足も門の中に進入すすみいる事ができなくなったのかと思うと、なお更にもう一度あの悪戯書いたずらがきで塗り尽された部屋の壁
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「何と言ったか、わたしもよく知らない、名札なふだが置いてあったはずだから見て上げよう」
そこで紳士は直ぐ左手の壁にかかっている沢山の名札なふだの中で一番上の列の一番端にかかっていた「研究所長鬼村正彦おにむらまさひこ」と書いた赤い文字のある札を手にとって、その裏をかえすと
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
真白まっしろ名札なふだが立って、それには MISS のついた苗字みょうじが二つ書いてあったっけ。……そう、その一方が確か MISS SEYMORE という名前だったのを私は今でも覚えている。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
箱は、紐をかけられ、名札なふだが打ちつけられた。半時間たつと、それをロートンへ運ばせる爲めに運送屋が呼びに遣られた。そこへ私は次の朝早く出かけて乘合馬車のりあひばしやに出會ふことになつてゐた。
工場の苦力クリイ名札なふだ王と云ふうぢの多きを見ることも支那
誰方どなただね、お名札なふだは。」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
客の名札なふだ
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
帆村の探偵事務所は、まるうちにあったが、今時いまどき流行はやらぬ煉瓦建れんがだて陰気いんきくさい建物の中にあった。びしょびしょにれたような階段を二階にのぼると、そこに彼の事務所の名札なふだが下げてあった。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
博士は、門をくぐり、ペイブメントをとおり、いくつかの会社のビルディングの蔭に行き、研究所の扉を押してスーウと内に入った。名札なふだをかえすと、スタスタと実験室の中に入って行った。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)