同情おもいやり)” の例文
お雪もその同情おもいやりに誘われて、子供に添乳そえぢをしながら泣いた。この二人の暗いところで流す涙を、三吉は黙って、遅くまで聞いた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この恋のために忘れてしまったのも無理からぬことと思われ、そして同情おもいやりの念を起さずにはいられないのであろう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
始終履歴りれきよごくさい女にひどい目に合わされているのを見て同情おもいやりえずにいた上、ちょうど無暗滅法むやみめっぽう浮世うきようずの中へ飛込もうという源三に出会ったので
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうして、このことをたびたび思うようになってからは、自分の方が子供より苦しんでいるつもりでいたときよりも、同情おもいやりのふかい看護ができてきたように思いました。
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
正直ぽうで、それに乾児こぶんのものなどに対しては同情おもいやり深く、身銭みぜにを切っては尽くすという気前で、自分の親のことを自慢するようであるが、なかなかよく出来た人であった。
容貌きりょうは十人並で、ただ愛嬌のある女というにすぎないけれど、如何にも柔和な、どちらかと言えば今少しはハキハキしてもと思わるる程の性分で何処どこまでも正直な、同情おもいやりの深そうな娘である。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
エリスは同情おもいやり深い調子でいった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
男は奥様を抱くようにして、御耳へ口をよせてなだすかしますと、奥様の御声はその同情おもいやり猶々なおなお底止とめどがないようでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そう女というものは男の事業しごとに冷淡なものかな。今までは、もうすこし同情おもいやりが有るものかと思っていた」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何程、世間の奥様が連添う殿方に解りましょう。——女の運はこれです。御縁とは言いながら、遠く御里を離れての旅の者も同じ御身上おみのうえで、真実ほんと同情おもいやりのあるものは一人も無い。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)