古里ふるさと)” の例文
岩手県上閉伊郡栗橋村字古里ふるさとという所に一のマツの木あり、年々枝葉繁伸してついに付近の耕地を蔽い日光をさえぎることおびただしかった。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
突堤の先端に立っている警羅けいらの塔の入口から、長靴をいた二本の足が突き出ていた。参木は一人になるとベンチにもたれながら古里ふるさとの母のことを考えた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そのうちのどれにしても帰りにくかった古里ふるさとへ、錦子は帰らなければならなかったのだが、故郷にも待っている冷たい眼は、傷心の人をなでてはくれない。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
脚気かっけわずらって病的な心臓を悪くし、寝るにも起きるにも着たきりの黒い洋服とともにくたぶれはてて、再縁している古里ふるさとの母のもとへかえって行ってしまった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
くもりなき水晶の花瓶はながめや、可笑おかしげにふくらみて、二人の顔のうつりたる、まろその横腹のおもてには、窓なる額縁に限られて、森の茂りと、古里ふるさとの空のこそえがかれたれ。
せがれの不孝にこの一年間にめつきり痩衰へて白髮の殖えたといふ父の顏や、凡て屡〻の妹の便りで知つた古里ふるさとの肉親の眼ざしが自分を責めさいなむ時、高い道念にかゞやいた
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
原籍を鹿児島県、東桜島、古里ふるさと、温泉場だなんて書くと、あんまり遠いので誰も信用をしてくれないのです、だから東京に原籍を書きなおすと、非常に肩が軽くて、説明もいらない。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
赤子の乳を呑むさまを、きちんとひざを折って坐って神妙に眺め、よい子守が出来たと夫婦は笑い、それにつけても、この菊之助も不憫なもの、もう一年さきに古里ふるさとの桑盛の家で生れたら
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
三重、組んでは古里ふるさと
ただ戀し、われは古里ふるさと
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ね/\かゝる古里ふるさと
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
人は歸らぬ古里ふるさと
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
かへりみすれば古里ふるさと
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
古里ふるさとを忍べばか
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)