古手拭ふるてぬぐい)” の例文
どんな御身分の方が、お慰みに、お飯事ままごとをなさるんでも、それでは御不自由、これを持って行って差上げな、とそう言いましてね。(言いつつ、古手拭ふるてぬぐいほどく)
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひたいと目尻に深いしわが刻み込まれた円顔まるがおには一杯油汗をかいていながら、禿頭はげあたまへ鉢巻をした古手拭ふるてぬぐいを取ってこうともせず、人のさそうな細い目を絶えずぱちくりさせている。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鍋蓋なべぶた古手拭ふるてぬぐい、茶碗のかけ、色々の物ががって来て、底は清潔になり、水量も多少は増したが、依然たる赤土水のにごり水で、如何に無頓着の彼でもがぶ/\飲む気になれなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
咽喉のどに巻いたる古手拭ふるてぬぐいのばして、覆面す——さながら猿轡さるぐつわのごとくおのが口をばゆわう。この心は、美女に対して、熟柿じゅくし臭きをはばかるなり。人形の竹を高くひっかつぐ。山手の方へ)
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古井戸の前には見るから汚らしい古手拭ふるてぬぐいが落ちて居た。私は昔水戸家みとけへ出入りしたとか云うかしら清五郎せいごろうに手を引かれて、生れて始めて、この古庭の片隅、古井戸のほとりを歩いたのであった。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
古手拭ふるてぬぐいで、我が鼻を、頸窪ぼんのくぼゆわえたが、美しい女の冷い鼻をつるりとつまみ、じょきりと庖丁でねると、ああ、あつつ焼火箸やけひばしてのひらを貫かれたような、その疼痛いたさに、くらんだ目が、はあ
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)