反歯そつぱ)” の例文
旧字:反齒
『お誂へは?』と反歯そつぱの女中に問はれて、「天麩羅」と云はうとしたが、先刻の若い男の顔がチラと頭に閃いたので
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのはしやいだ賑やかな笑ひ、笑ふたびの三角な眼、鼻の頭の小皺、反歯そつぱなどが一ト時ひとみの先に映り動いた。私は相手の幻影に顔をあからめてにつこり笑ひかけた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
軽い冗談じようだんを云ひながら、亭主から煙草を貰つて、一本つけた。烏が馬鹿にさうざうしく啼いてゐる。南京豆を反歯そつぱで噛みながら、亭主は、ジャンパアのチャックをまさぐりながら
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
振むけての面を見れば出額の獅子鼻、反歯そつぱの三五郎といふ仇名おもふべし、色は論なく黒きに感心なは目つき何處までもおどけて兩の頬に笑くぼの愛敬、目かくしの福笑ひに見るやうな眉のつき方も
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
麦沢教授は反歯そつぱき出してハツハと打ち笑へり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
肉の緊つた青白い細面の、醜い顔ではないが、少し反歯そつぱなのを隠さうとする様に薄い唇をすぼめてゐる。かと思へば、些細の事にも其歯を露出むきだしにして淡白きさくらしく笑ふ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
振むけてのおもてを見れば出額でびたい獅子鼻ししばな反歯そつぱの三五郎といふ仇名あだなおもふべし、色は論なく黒きに感心なは目つき何処までもおどけて両のほうくぼの愛敬、目かくしの福笑ひに見るやうなまゆのつき方も
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)