危気あぶなげ)” の例文
旧字:危氣
この速製の探偵屋に最初のうち少からず危気あぶなげを覚えていた私も、いまはもう躊躇するところなく、下男と力を合わせて白鮫号を水際へ押し出した。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
正司に自ら発明する才がなく、小才をはたらかそうとする野心がないだけ、却って危気あぶなげがない。二十三の若冠ながら充分に社長の重責を果している。
青年は、好事ものずきにも、わざと自分の腰をずらして、今度は危気あぶなげなしに両手をかけて、揺籠ゆりかごのようにぐらぐらと遣ると
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何でもない顔をして模本の雲林を受取った。敵の真剣を受留めはしないで、澄ましてたいわして危気あぶなげのないところに身を置いたのである。そしてこういうことを言った。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
危気あぶなげは百枚くらいに達して感じたものの、勢いとなめらかさは遂に説話体になり、それがたとえ失敗に終っても生涯に一度くらい失敗したってよいという度胸を決めて了ったのである。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
行くときは壁や障子を伝つて危気あぶなげに下駄を穿つつかけたが、帰つて来てそれを脱ぐと、モウ立つてるせいがなかつた。で、台所の板敷をやつと這つて来たが、室に入ると、布団の裾に倒れて了つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お妙は玄関わき、生垣の前の井戸へ出て、乾いてはいたがすべりのある井戸ながし危気あぶなげも無くその曲った下駄で乗った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殿ふたたびお出ましの時には、小刀を取って、危気あぶなげ無きところをずるように削り、小々しょうしょう刀屑かたなくずを出し、やがて成就のよしを申し、近々ご覧に入るるのだ。何の思わぬあやまちなどが出来よう。ハハハ。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
危気あぶなげのある仕事には作家は親しまないものだ。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「へい、もう、刻限で、危気あぶなげはござりましねえ、嘴太烏ふとも、嘴細烏ほそも、千羽ヶ淵の森へんで寝ました。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)