南縁なんえん)” の例文
そして、気がいて恐る恐る眼をやった時、南縁なんえんの雨戸のしまる音がして、曲者くせものの姿はもう見えないで、被衣のみがすなの上にふわりと落ちていた。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
南縁なんえんけんを迎うるにやあらん、腰板の上にねこかしらの映りたるが、今日の暖気に浮かれでし羽虫はむし目がけて飛び上がりしに、りはずしてどうと落ちたるをまた心に関せざるもののごとく
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そのとき南縁なんえん鳴板なるいた鴬張うぐいすばり)に静かな跫音のキシミが聞えたからであった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日曜だが、来客もなくてしずかなことだ。主と妻と女児と、日あたりの母屋おもや南縁なんえんで、日なたぼっこをして遊ぶ。白茶しらちゃ天鵞絨びろうどの様に光る芝生しばふでは、犬のデカとピンと其子のタロウ、カメが遊んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、その時、寝所しんじょ南縁なんえんの月の光のしている雨戸がかすかな音を立てていた。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)