凜冽りんれつ)” の例文
そして始めて女体を知った道鏡の肉慾も淫縦いんじゅうだった。二人は遊びに飽きなかった。けれども凜冽りんれつな魂の気魄きはくと気品の高雅が、いつも道鏡をびっくりさせた。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
霜威そうい凜冽りんれつたる冬の夜に、見る目も寒く水を浴びしとおぼしくて、真白の単衣ひとえは濡紙を貼りたる如く、よれよれに手足にまといて、全身の肉附は顕然あらわに透きて見えぬ。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同盟罷工どうめいひこうねまじき有様ありさまに至りたるがごとき、かかる場合に於て、予も幾分いくぶんか頭痛を感ずることあるも、何ともなきを仮粧かそうしたり、また土用中なるにもかかわらず寒気凜冽りんれつにして
寧ろ寒さ其物が結晶してりに人間らしい姿をして、不図ふと此原に迷い出したのではなかろうか。其胴体から放散する凜冽りんれつの気は、触るる所の何物をも凍らせずには置かないような気がする。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
凜冽りんれつたる朔風さくふうは門内のてた鋪石しきいしの面を吹いて安物の外套がいとう穿うがつのである。
新年雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
気象学会より寄贈せられたる鑵詰をかじりてうえしのぎ、また寒気次第に凜冽りんれつを加うるといえども、器具散乱して寝具を伸ぶべき余地なく、かつ隔時観測を為しつつあるを以て、睡眠のすきを得ず