冷嘲れいちょう)” の例文
遠くは北辺の上杉、伊達だてなどに至るまでが、こぞって、反感か、邪視じゃしか、冷嘲れいちょうか、いずれにしても、好意は示していない。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軽蔑けいべつ冷嘲れいちょうの微笑を浮べて黙って彼の新生活の計画というものを聴いていたが、結局、「それでは仕度をさせて一両日中にることにしましょう」
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
松崎は世間に対すると共にまた自分の生涯に対しても同じようになかば慷慨こうがいし半は冷嘲れいちょうしたいような沈痛な心持になる。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
過去の不幸だった父がまたそんなことで冷嘲れいちょうされますことの添いますのも心苦しゅうございまして
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そしてまたおかしがりたいためにすべて人生一般の対照物をその冷嘲れいちょうまととなりうる下賤げせんな階級まで引きずり降ろさずにおかないのだから、相手が不快がるのは無理はない。
とあるは当時の二葉亭が右すべきや左すべきやと迷った心状を自ら罵った冷嘲れいちょうであろう。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
すると彼女は今まで話していた調子とすこし変って、冷嘲れいちょうするような笑い方をしながら
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
この静かなもの悲しげな顔と並んで、ポルフィーリイの隠しても隠し切れない、ずうずうしい、いらいらした、無作法な冷嘲れいちょうが、ラズーミヒンには異様に感ぜられるのであった。
背柄せがらは中位であったという。受け答えのよい人で話上手じょうずで、あったとも聞いた。話込んでくると頬に血がのぼってくる、それにしたがって話もはずむ。冷嘲れいちょうな調子のおりがことに面白かったとかいう。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
此のうえもない冷嘲れいちょうをふくむ笑いである。
これお世辞なるや冷嘲れいちょうなるや我知らず。およそ小説と称するものその高尚難解なると通俗平易なるとの別なく共に世態人情の観察細微を極むるものなからざるべからず。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)