偸見ぬすみみ)” の例文
英二は、話の間にちらりと大村の顔を偸見ぬすみみた。志賀健吉が突然妙な話をはじめたのが、どういう意味かサッパリ見当がつかなかったのだ。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
しかし、お竜ちゃんは、大きな、無恰好ぶかっこうな数字が一めんにおどっているような私の帳面の方は偸見ぬすみみさえもしようとはしなかった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
同時にお雪が帰って来て、その紙を取上げ、猫板の上に置いたのを、偸見ぬすみみすると、謄写摺とうしゃずりにした強盗犯人捜索の回状である。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「御家内の方でございますか、奥様でいらっしゃるのだと、わたくし存じあげているんですけれど……」主婦はそう言って女客をちらと偸見ぬすみみたが、女客は低い声でこたえた。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
衣裳棚の前に立っている佃の方を、時々好奇心をもって偸見ぬすみみるようにしながら、彼は云った。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
人形を見、また一片の石鹸を偸見ぬすみみしながら、彼は口の中でこうつぶやいた。「火曜日。——火曜日じゃない。——火曜日かな。——火曜日かも知れん。——そうだ、火曜日だ。」
クリストフは恐さにひかれて、半開きの扉の入口から、老人の悲壮な顔を偸見ぬすみみていた。
彼は始めて心安う座を取れば、恐るおそる狭山はづその姿を偸見ぬすみみ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
また、凱旋の将軍の夫人が偸見ぬすみみの如き
ヒウザン会とパンの会 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
と舌打ちしながら、山鹿の横顔を偸見ぬすみみると、彼は相変らずにやにやと薄く笑いながらわざとっぽを向いていた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そして私はその目のうちらに、自分自身のこうしている姿を、ついいましがた頭の君に偸見ぬすみみせられていたでもあろうような影として、何んと云うこともなくよみがえらせていた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
主任が、ジロジロ私の上気し、輝いている顔を偸見ぬすみみながら云った。
刻々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
鷺太郎は、偸見ぬすみみるようにして、経木きょうぎの帽子をまぶかにかぶりゆっくりと歩いて行った。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
おとよさんは、ちらりと女らしい偸見ぬすみみで伸子を見た。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
マダム丘子のあけすけな言葉に皆はフッと視線をらして冷めたいお茶を啜った。私は青木の顔を偸見ぬすみみると、彼は額に皺を寄せた儘わざと音を立てて不味まずそうにお茶で口をうがいしていた。
唯、無言でうなずいたきりであった。そして又、ちらりと春日の横顔を偸見ぬすみみた。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)