偶像ぐうぞう)” の例文
京都の北朝ほくちょう偶像ぐうぞうである。傀儡師かいらいしの尊氏にはさしたる戦意もない。直義ただよしは一驕者きょうしゃにすぎず、次第に武家からも見離されよう。きざしはもうみえている。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
偶像ぐうぞうの利益功力こうりよくを失ふと云ふが如きかんがへは存し得べき事にして、尊崇そんすうすべき物品が食餘しよくよ汚物おぶつと共に同一所に捨てられしとするも敢てあやしむべきには非ざるなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
ヴェルレエン、ラムボオ、ヴオドレエル、——それ等の詩人は当時の僕には偶像ぐうぞう以上の偶像だった。が、彼にはハッシッシュや鴉片あへんの製造者にほかならなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その「男たらし」である彼女が、わたしの偶像ぐうぞうであり、わたしの神とあがめる存在なのだ! その悪罵あくばが、わたしの胸を焼きがした。わたしはそれからのがれようと、枕に顔をめた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
彼女を非時代的な偶像ぐうぞう型の女と今更憐みや軽蔑を感じながら、復一はまた急にあせり出し、彼女の超越を突きくずして、彼女を現実に誘い出し、彼女の肉情と自分の肉情と、血で結び付きたい願いが
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
むべきは英雄である、現代の日本は英雄崇拝の妄念もうねんを去って平等と自由に向かって進まねばならぬ、すべての偶像ぐうぞうを焼いて世界の趨勢にしたがわねばならぬ、私の論はこれをもっておわりとします
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
観音かんのん釈迦しゃか八幡はちまん天神てんじん、——あなたがたのあがめるのは皆木や石の偶像ぐうぞうです。まことの神、まことの天主てんしゅはただ一人しか居られません。お子さんを殺すのも助けるのもデウスの御思召おんおぼしめし一つです。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)