偶〻たま/\)” の例文
偶〻たま/\山腹に火を焚くものあり。その黄なる燄は晴天の星の如くなりき。われは覺えず驢背に合掌して、神の惠の大なるを謝したり。
來慣きなれぬ此里に偶〻たま/\來て此話を聞かれしも他生たしやう因縁いんねんと覺ゆれば、歸途かへるさには必らず立寄りて一片の𢌞向ゑかうをせられよ。いかに哀れなる話に候はずや
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
けれども結局云わねばならなくなったから、彼の一旦拒否した事は偶〻たま/\彼の証言に重きを加える事になって終った。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
しかるに偶〻たま/\父の霊を慰め、彼女の悩みを和げる時機が到来したと云うのは、薬師寺家と筑摩家との和睦、それについで則重と彼女との縁組が成立した一事である。
多勢の通行人の中から偶〻たま/\一人店頭へれて来る者はないかと、それのみに眼を配つて——。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
而して余は偶〻たま/\之に依りて、彼等警官が平素如何に鉱毒地民を誤解し居るかを証明し得たりと信ずるなり。アヽ此の最下級官吏の誤解は上伝せられて、やがて中央政府の解釈となるなり。
鉱毒飛沫 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
これよりして、我足は日として四井街に向はざることなく、偶〻たま/\識る人に逢ふことあれば、散歩のゆくてはヰルラ、アルバニなりとあざむきつ。
予の隣座に偶〻たま/\証人として来ていたウイリヤムソンと云う宣教師が坐っていた。机を隔てゝ支倉の細君静子も居た。やがて一人の刑事が室を出たり這入ったりした。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
自分は貴下がかの盲目物語の資料と着想とを那辺なへんより得られたかを知らないけれども、偶〻たま/\自分の手元にも、あれと時代を同じゅうするのみか略〻ほゞ背景をも同じゅうしながら
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
顏容かほかたちさへ稍〻やつれて、起居たちゐものうきがごとく見ゆれども、人に向つて氣色きしよくすぐれざるを喞ちし事もなく、偶〻たま/\病などなきやと問ふ人あれば、却つて意外の面地おももちして、常にも増して健かなりと答へけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その曲は偶〻たま/\アヌンチヤタがヂドに扮して唱ひしものと同じけれども、その力を用ゐる多少と人をうごかす深淺とは、もとより日を同うして語るべきならず。