健啖家けんたんか)” の例文
彼はなかなかの健啖家けんたんかで、せほそってはいたものの、大蛇のように胃袋をふくらますことができたのだ。
また小食の人も健啖家けんたんかも、にくを注文すれば同じ分量をさずけられる。ほとんど個性を無視しておとこぴき食物しょくもつ何合なんごう、衣類は何尺なんじゃくと、一人前なる分量が定まっている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「笹村君は、これでもう何年になるいな。」と、健啖家けんたんかのT—は、肺病を患ってから、背骨の丸くなったせなかを一層丸くして、とめどもなくわんを替えながら苦笑した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その大原というのは同じ学校にいた朋友だが校中第一の健啖家けんたんかで、その男の物を食べるには実に驚く。賄征伐まかないせいばつる時には一人で七、八人前を平らげるという剛の者だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
馬車を四馬路スマロに返して杏花楼きやうくわらう上海シヤンハイ一の支那料理の饗応を受けたが、五十ぴんからの珍味は余りにおほきに過ぎて太半たいはん以上のどを通らず、健啖家けんたんか某某ぼうぼう二君も避易へきえきの様子であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
先生は、肥満型ひまんがたで、血圧が高かったため、酒も煙草たばこもたしなまなかったが、その代わりに、非常な健啖家けんたんかで、速度もなみはずれてはやく、それがしばしば食卓の笑い話の種になるほどだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
おそらく天下第一の健啖家けんたんかは、夏侯惇であろう。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腹の中で胃と腸とが対談はなしをしてしきりに不平をこぼしている所を見ました。僕は学校にいた時分から校中第一の健啖家けんたんかと称せられて自分も大食を自慢にしたくらいですから僕の胃腸は随分骨が折れましょう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)