倚凭よりかか)” の例文
大旦那が大黒柱に倚凭よりかかって、私のことを『幸作!』と呼んでいるような——あんなヒドイ目に逢いながら、私はよくそういう夢を見ます。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
高いてすり倚凭よりかかって聞くと、さまざまの虫の声が水音と一緒に成って、この谷間に満ちていた。その他暗い沢の底の方には種々な声があった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は倚凭よりかかって眺め入っていた田圃たんぼわきだの、いていた草だの、それから岡をよぎる旅人の群などを胸に浮べながら帰って来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すずしい風の来るところを択んで、お福は昼寝の夢をむさぼっていた。南向の部屋の柱に倚凭よりかかりながら、三吉はお雪から身上みのうえの話を聴取ろうと思った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
引返してお新の居る方へ来て見ると、彼女は太い綱なぞの置いてあるところに倚凭よりかかって、船からおかの方を眺めていた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
炉に掛けた雪平ゆきひらの牛乳も白い泡を吹いて煮立ちました頃、それを玻璃盞コップに注いで御二階へ持って参りますと、旦那様は御机に倚凭よりかかって例の御調物です。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
辰さんは桟俵さんだわらを取ってふたをしたが、やがて俵の上に倚凭よりかかって地主と押問答を始めた。地主は辰さんの言うことを聞いて、目を細め、無言で考えていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吾儕は長い間掛って、兄弟に倚凭よりかかることを教えたようなものじゃ有りませんか……名倉の阿爺おやじなぞに言わせると、吾儕が兄弟を助けるのは間違ってる。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一旦いったん蚊帳の内へ入って見たが、復た這出はいだした。夜中過と思われる頃まで、一枚ばかり開けた戸に倚凭よりかかっていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こう稲垣の細君が言うと、娘は母に倚凭よりかかりながら、結婚ということを想像してみるような眼付をしていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人が友情の結ばれ始めた日——捨吉は菅と共にしばらく廊下の欄に倚凭よりかかりながら、その日のことを思って見た。チャペルの扉の間からその広間の内部なかの方に幾つも並んだ長い腰掛が見えた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
年老いた地主は白髪頭しらがあたまを真綿帽子で包みながら、うちの内から出て来た。南窓の外にある横木に倚凭よりかかって、寒そうに袖口そでぐち掻合かきあわせ、我と我身を抱き温めるようにして、辰さん兄弟の用意するのを待った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「房ちゃんのお迎えに来たんだよ」と附添の女は窓に倚凭よりかかった。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)