体裁ていたらく)” の例文
旧字:體裁
裏道小町はさもなかったそうでござりますが、とおり一筋道は、まるで、諸道具、衣類、調度が押流されました体裁ていたらく、足の踏所もござりませなんだ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さいなあ。今生こんじょうの思い出に今一度、見たいと思うてはおりまするが、今の体裁ていたらくでは思いも寄りませぬ事で……」
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お國はちゅう二階に寝ていましたが、此の物音を聞き附け、寝衣ねまきまゝ階子はしごを降り、そっと来て様子をうかゞうと、此の体裁ていたらくに驚き、あわてゝ二階へあがったり下へ下りたりしていると
浪の音は耳れても、磯近いそぢかへさきが廻って、松の風に揺り起され、肌寒うなって目を覚ましますと、そのお前様……体裁ていたらく
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かゝしやま/\と悲鳴を揚げつゝ竹矢来の外へ引かれ行けば、並居る役人も其の後よりゾロ/\と引上げ行く模様さま、今日の調べはたゞ初花太夫一人の為めなりし体裁ていたらくなり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
急な雨の混雑はまたおびただしい。江戸中の人を箱詰はこづめにする体裁ていたらく。不見識なのはもちにでっちられた蠅の形で、窓にも踏台にも、べたべたと手足をあがいて附着くッつく。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬術の門弟もちりぢりになって散々の体裁ていたらくじゃ。のみならず出会う人ごとに、薩州は大藩じゃ。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
旅費のつかい残りで、すぐに石油を買う体裁ていたらく、なけなしの内金で、その夜は珍らしくさかなを見せた、というのが、苦渋いなまり節、一欠片ひとかけら。大根おろしも薄黒い。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……待たっせえ、腰を円くそう坐られた体裁ていたらくも、森の中だけ狸に見える。何と、この囲炉裏いろりの灰に、手形を一つおしなさい、ちょぼりと落雁らくがんの形でござろう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)