仮宅かりたく)” の例文
旧字:假宅
猿若町の芝居も蓋をあけるという勢いで、よし原の仮宅かりたくは大繁昌、さすがはお江戸だと諸国の人をおどろかしたくらいでした。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「では、近藤先生のお宅はいかがで、木津屋橋の近藤先生のお仮宅かりたくならば、わたしがくわしく存じております」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
長崎で世話になった唐人あちゃさんが、今、江戸へ上って来ているから、一寸、挨拶をして来ると言って、新堀町しんぼりちょうで女中を返し、自分ひとりで神田和泉町いずみちょう陳東海ちんとうかい仮宅かりたくへ訪ねて行ったところ
それから古洲と二人で春まだ寒き夜風に吹かれながら田圃路をたどつて品川に出た。品川は過日の火災で町は大半焼かれ、こと仮宅かりたくを構へて妓楼ぎろうが商売して居る有様は珍しき見ものであつた。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
蜀山人しょくさんじん吟咏ぎんえいのめりやすにそぞろ天明てんめいの昔をしのばせる仮宅かりたく繁昌はんじょうも、今はあしのみ茂る中洲なかすを過ぎ、気味悪く人を呼ぶ船饅頭ふなまんじゅうの声をねぐら定めぬ水禽みずとり鳴音なくねかと怪しみつつ新大橋しんおおはしをもあとにすると
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)