今生こんじやう)” の例文
ひと知れず今生こんじやうのいとま乞ひでもして来ようと苦笑しながら、金物屋の前まで行き、ふと見ると、入口の南京錠がはづれてゐる。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
二十餘年の御恩の程は申すもおろかなれども、何れのがれ得ぬ因果の道と御諦おんあきらめありて、なが御暇おんいとまを給はらんこと、時頼が今生こんじやうの願に候
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
実を云ふと彼は、かうなるまでに、師匠と今生こんじやうの別をつげると云ふ事は、さぞ悲しいものであらう位な、予測めいた考もなかつた訳ではない。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『イカニいはんヤ、日蓮今生こんじやうニハ貧窮下賤ひんぐうげせんノ者ト生レ旃陀羅ガ家ヨリ出タリ。心コソ少シ法華経ヲ信ジタル様ナレドモ、身ハ人身ニ似テ畜身ナリ……』
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日眼女にちがんによ今生こんじやうの祈りのやうだが、教主けうしゆ釋尊像しやくそんざうを造られたから後生成佛ごしやうじやうぶつであらう。二十九億九萬四千八百三十人の女の中の第一の女人によにんであると思はれよ。
引立れば藤八お節は何分なにぶんにもと挨拶あいさつなし兩人は九助を見送るに九助も此方を振返ふりかへり互ひに見交みかはす顏と顏これ今生こんじやう暇乞いとまごひと三人が涙は玉霰たまあられ見送り見返り別れけり藤八は我と心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
汝等なんぢら天に訴へ祈り呪咀じゆそすること道理もつともなれども彼が三世の其以前そのいぜんは義長こと法師にて五部の大藏經を書寫かきうつし此國を治めたり善根ぜんこん今生こんじやうむくい來て當國を知行することを得る因てしばらく其罪を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)