享保きょうほ)” の例文
享保きょうほ元禄げんろく……」とまるで御経でもあげるように父の肩につかまって唱えたりたたいたりしたあの書院の内を記憶でまだ見ることも出来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
享保きょうほの初年である。利根川のむこう河岸がし、江戸の方角からいえば奥州寄りの岸のほとりに一人の座頭ざとうが立っていた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七兵衛は得意になって、正徳しょうとく享保きょうほ改鋳金かいちゅうきんを初め、豆板、南鐐なんりょう、一分、二朱、判金はんきん等のあらゆる種類を取並べた上に、それぞれ偽金にせきんまでも取揃えて、お絹を煙に巻いた上に
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで相談の上、お六は長庵と別れて、望み通りにカフエへ住み込む。これも、享保きょうほのむかしのことだから、カフエではない。どこかそこらの料理屋へでも仲居奉公にはいる。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
元禄時代に雅語、俗語相半せし俳句も、享保きょうほ以後無学無識の徒に翫弄がんろうせらるるにいたって雅語漸く消滅し俗語ますます用ゐられ、意匠の野卑と相待て純然たる俗俳句となりをはれり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「それは徂徠の方がはるかにいい。享保きょうほ頃の学者の字はまずくても、どこぞにひんがある」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宮古路みやこじの浄瑠璃は享保きょうほ元文げんぶんの世にあつては君子これを聴いて桑間濮上そうかんぼくじょうの音となしたりといへども、大正の通人はあごでて古雅きくすべしとなす。けだし時世変遷の然らしむるところなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
享保きょうほ十二年の大火事の翌年にも、藁葺きの新築は禁止するというお触れがでており、そのまた次の年には、なるべく下地総塗したじそうぬりの家作かさく、すなわち今いう土蔵造りを建てよという命令も発せられた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
享保きょうほの昔のことだから、キュウピットの矢なんていうモダンな飛び道具はなかったかも知れないが、いくらキュウピットの矢は無くても、恋をするのに別段不便は感じないのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)