ちょ)” の例文
この点から見ると、私は少年時代の目を、純一無雑な、く軟らかなものであると思う。どんなちょっとした物を見ても、その印象が長く記憶に止まっている。
幼い頃の記憶 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ早く行っておいで、——ああちょっとお待ち、済まないがまさやに葡萄酒ぶどうしゅを出さして置いて貰おうかね」
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おついでにちょっと一と廻りしてくださいませんか、わたくし何だか寒気がしてならないんですから。」
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
子は口をがらせて母の手の指をんだ。母は「痛ッ」といって手を引っこめた、そしてちょっと指頭ゆびさきを眺めてから「まアこの子ったら。」といった。子は黙って母をにらんでいた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
「私が暴れて打壊ぶちこわしたようなもんですの。あの人はまたどうして、あんなに気が多いでしょう。ちょいと何かいわれると、もう好い気になって一人で騒いでいるんですもの。その癖嫉妬やきもちやきなんですがね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
同時に祐吉は馬車へ飛移り、釣棹をへし折って席へ突立てて、それへ京太郎の脱いで行った上衣うわぎと帽子を冠せた……ちょっと見ると人が乗っているように見える。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あってもそれは少年時代のあこがれ易い目に、ちょっと見た何の関係もない姿が永久その記憶から離れないと云うような、単純なものではなく、忘れ得ない人々となるまでに、いろいろ複雑した動機なり
幼い頃の記憶 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日は潮干狩の客で賑わった、併し度々たびたび驟雨があり遂に正午ちょっと廻った時分から本降りになって客は散々の体だった。通船の五十五号にいる火夫弘保君が女をこしらえた。
いいえ、——もっとも今まで此室ここを留守にしていましたが、ちょっと帳場へ訊いてみましょう」
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何しろ、あの黒い、メタン瓦斯ガスを吐いている水の中へ頭までもぐって為事をするのだからちょっとこたえる。今は午前四時である。横浜へは行くまいと思う、何しろ金がないのだから。
「も、もう削れねえだ、もう、ちょっと、押しても、それで……ああ、危ねえ——」
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ちょっとお伺いしますが、平野さんのお屋敷の方ではありませんか」
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ちょっと其辺そのへんを歩いて来るから」
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)