二口ふたくち)” の例文
この辺りの筏は残らず徴発めしあげられて、一艘だって有りはしませぬ。往来は、御城下の橋と、この井細田の舟橋との二口ふたくちに限られて、それも、手形がなくては渡れまぬ
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つめたい雪はお葉の白い手から洋盃に移された。重太郎は無言で雪と酒とを一所いっしょに飲んだ。が、口に馴れぬ酒ははりにがいと見えて、彼は二口ふたくちばかり飲んで洋盃を置いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
門戸を開放すると間もなく衣笠さんが同時に二口ふたくち持ち込んだ。しかし一つは私立出だった。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たまに奥さんと一口ひとくち二口ふたくち言葉をわす事がありましたが、それは当座の用事についてのみでした。お嬢さんにはKの生前について語るほどの余裕がまだ出て来なかったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は思わず「お母さん、お母さん」と一口ひとくち二口ふたくち叫んだが、それが丁度ちょうどその時刻頃であったろう」と、従兄自身も不思議な顔をして語ったので、そばに居たその男も、すこぶる妙に感じたと
感応 (新字新仮名) / 岩村透(著)
しらべると、びんに半分はんぶんほどのこつたウィスキイに青酸加里せいさんかり混入こんにゅうしてあつた。だから老人ろうじんは、それを一口ひとくちか、せいぜい二口ふたくちむとくるしくなり、金魚鉢きんぎょばちのそばまでつてつてんだのにちがいない。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
宗助そうすけ御米およねんであつちや湯呑ゆのみから二口ふたくちほどんで
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)