不得要領ふとくようりょう)” の例文
後から続いた岡っ引の葬式彦兵衛もいつものとおり不得要領ふとくようりょうににやりと笑いを洩らしただけでそれでも完全に同意の心を表していた。
低気圧とは何の事だか、君の平生を知らない余には不得要領ふとくようりょうであったけれど、来客謝絶の四字の方が重く響いたので、聞き返しもしなかった。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ワトソン君、今度の土曜日の朝は、一つ一緒に出かけて行って、この奇妙な、不得要領ふとくようりょうな事件を、見事に結末をつけてしまおうじゃないかね?
同じことを注意されると、かしこまりましたで引き退さがる。また呼ばれるとまた別の男が出る。その不得要領ふとくようりょうの中に縁日は済んでしまうのだそうです。
彼が不得要領ふとくようりょう申立もうしたてをすればるほど、疑惑うたがいの眼はいよいよ彼の上にそそがれて、係官は厳重に取調とりしらべを続行した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
結局不得要領ふとくようりょうで分れたが、それがやっぱりこの世のどこかにいる、もう一人の僕のことだったかも知れないね
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ところが、あの二人の角兵衛獅子というのが……まことに妙な因縁でして……」と万吉は、不得要領ふとくようりょうに、ちょッとまげを掻きながら、うしろに隠れているお綱を指した。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と赤羽君は不得要領ふとくようりょうな男だ。大に主張するのかと思っていたら、直ぐに妥協してしまった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし同じ問題について、利益を受けようとしても、受けられない事が間々ままあったといわなければならない。先生の談話は時として不得要領ふとくようりょうに終った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「本当にいないのです。婆さんに尋ねても不得要領ふとくようりょうなので、二階へ上って見たんですが、猫の子一匹いやしない。じゃ、裏口からでも外出したのかも知れませんね」
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
不得要領ふとくようりょうに終った。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この問答は私にとってすこぶる不得要領ふとくようりょうのものであったが、私はその時そこまで押さずに帰ってしまった。しかもそれから四日とたないうちにまた先生を訪問した。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不審に思って赤井さんの顔を眺めると、彼は不得要領ふとくようりょうにニヤニヤ笑っているばかりだ。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何かいそぎの用でもできたのかと聞くと、いや何というばかりで、不得要領ふとくようりょうにまた箸を取ったが、どことなくそわそわした様子で、まだ段落のつかない用談をそのままに
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、何という不得要領ふとくようりょうな、不可思議千万な殺人事件であったことか。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)