不取敢とりあへず)” の例文
不取敢とりあへずその惢を捻上げると、パッと火光あかりが發して、暗に慣れた眼の眩しさ。天井の低い薄汚ない室の中の亂雜だらしなさが一時に目に見える。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
不取敢とりあへず、東京に居る細君のところへ、と丑松は引受けて、電報を打つ為に郵便局の方へ出掛けることにした。夜は深かつた。往来を通る人の影も無かつた。是非打たう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
貫一さんや、わしだ。とうにも訪ねたいのであつたが、何にしろ居所が全然さつぱり知れんので。一昨日おとつひふと聞出したから不取敢とりあへずかうして出向いたのだが、病気はどうかのう。何か、大怪我おほけがださうではないか
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
不取敢とりあへず湯に入つてると、お八重お定が訪ねて來た。一緒に晩餐めしを了へて、明日の朝は一番汽車だからといふので、其晩二人も其宿屋に泊る事にした。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
不取敢とりあへず開封して読下して見ると、片仮名の文字も簡短に、父の死去したといふ報知しらせが書いてあつた。突然のことに驚いて了つて、半信半疑で繰返した。確かに死去の報知には相違なかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
やうやく唯継の立起たちあがれば、宮は外套がいとうを着せ掛けて、不取敢とりあへず彼に握手を求めぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
不取敢とりあへず湯に入つてると、お八重お定が訪ねて来た。一緒に晩餐を了へて、明日の朝は一番汽車だからといふので、其晩二人も其宿屋に泊る事にした。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
不取敢とりあへず、一つ差上げませう。』と丑松はさかづきの酒を飲乾してすゝめる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「天麩羅二つ。」と吩附いひつけてやつてドシリと胡坐をかくと、不取敢とりあへず急がしく足袋を穿き代へて、古いのを床の間の隅ツこの、燈光あかりの屆かぬ暗い所へ投出した。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
不取敢とりあへず気の小さい兼大工を説き落し、兼と二人でお定の家へ行つて、同じ事を遠廻しに詳々くどくどと喋り立てたのであるが、母親は流石に涙顔をしてゐたけれども
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さてこれからどうしたもんだらう? と考へたが、二三件向うに煙草屋があるのに目を附けて、不取敢とりあへず行つて、「敷島」と「朝日」を一つ宛買つて、一本點けて出た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さてこれから怎したもんだらう? と考へたが、二三軒向うに煙草屋があるのに目を付けて、不取敢とりあへず行つて、「敷島」と「朝日」を一つづつ買つて、一本けて出た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と言つて、だるさうに炉辺ろばたから立つて来て、風呂敷包みを受取つて戸棚の前に行く。海苔巻でも持つて行くと、不取敢とりあへずそれを一つ頬張つて、風呂敷と空のお重を私に返しながら
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それで不取敢とりあへず離室はなれの八畳間を吉野のへやに充てて、自分は母屋の奥座敷に机を移した。吉野と兄の室の掃除は、下女の手伝もなくおもに静子がする。兎角、若い女は若い男の用を足すのが嬉しいもので。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
朝に目を覺まして、床の中で不取敢とりあへず新聞を讀む。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
朝に目を覚まして、床の中で不取敢とりあへず新聞を読む。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)