下手糞へたくそ)” の例文
大体、三番のかじさんと、四番のぼくはならんで引くのが原則ですが、下手糞へたくそため、時々、五番の松山さんや整調の森さんとも引きます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
寝台は二段になっていて、二階の方に、下手糞へたくそな字で、村上兵曹、と書いた新しい木札がかけてあった。梯子はしごを登り、私は毛布の上に横たわった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
現実のトリックは夢のトリックよりもずっと下手糞へたくそだ。夢は私のために一人の少女をあっさりと葡萄酒に変えてくれる。
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
お友達と下手糞へたくその義太夫の会を開くたんびに、白鷹先生を呼ぶんですから、それが見栄なんですよ。つまらない……
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
園は取りだした金を机の上で下手糞へたくそに勘定していたが、やがてちょうど五円だけにしてそれを人見の前においた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
時公ときこうもエラクなったもんだな、算術なんかあんな下手糞へたくそでも、都へ出るとエラクなれるものだな」
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「それでいて、を打つ、うたいうたう。いろいろな事をやる。もっともいずれも下手糞へたくそなんですが」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……せいぜい、下手糞へたくそな絵でも見た奴が考え出した形容だろう。……実物を見れば、それこそ物も云えなくなってしまうのだ。……何と云うかな?……何とも云いようがない。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
下手糞へたくそな按摩で、この上もなく感の惡い柿の市、同じ武士の果てだと言つても、兩眼明かで、武術にも達して居たといふ、錺屋の三郎兵衞を、簡單に殺せる筈はなかつたのです。
よしんば物笑いの種になるほど下手糞へたくそだったとしたところで、その下手糞はかえってナオミを引き立てることになるのですから、寧ろ私は本望なのです。それから又、私には妙な虚栄心もありました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
T君が英語でもって部屋はあるかと声をかけた。するとその主人はそれよりもっと下手糞へたくそな英語でそれに応じた。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
発田は半ばうつむいて、しきりに小さな棒を打ちつづけていた。下手糞へたくそなその旋律は、草津節であった。やけくそな調子が、キンキンした響きの中にあった。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
しかし私は落胆がっかりした。——とうとう本物の鼓打ちになるのか。一生涯下手糞へたくその御機嫌を取って暮さなければならないのか。——と思うとソレだけでもウンザリした。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かれの家にも引張って行かれ、二間位のせせこましい家に、いっぱいに置かれたオルガンで、下手糞へたくそなスワニイ河をきかされたり、やさしいお母さんにも紹介しょうかいしてもらお茶コオヒイを頂いたり
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「ボクの英語もうまくないが、キミのフランス語も下手糞へたくそだねえ」
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
下手糞へたくそな浪曲をうなってみたり、立ち上って孫伍風の拳法の型の真似をしたり、わいわい騒いでいるうちに、陳さんがポケットからやおら書類のようなものを取出した。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
しかしいそげばいそぐほど、私は下手糞へたくそになって、それをけずり上げない先きに折ってしまった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
例の支那人しなじんのボオイを呼んで、朝飯はまだ食わせてくれるかと聞いたら、すこし怒ったような顔つきをして、朝食を食べるならもう少し早く起きてほしい、もう十二時だ、と下手糞へたくそな日本語で
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)