上面うわつら)” の例文
それは上面うわつらの礼式にとどまる事で、精神には何の関係もない云わば因襲いんしゅうといったようなものですから、てんで議論にはならないのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでは一通り上面うわつらだけを読んで、とりあえずの説明をすることも考えられるが、それは私にはどうも気が進まない。
「寺田寅彦の追想」後書 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
色は死人のように青い。数秒時間呼吸のんでいる時がある。それから上面うわつらでするような、すするような息をする。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
またたとい目明きでも、観察力の乏しい人は何を見てもただほんの上面うわつらを見るというまでで、何一つ確かな知識を得るでもなく、物事を味わって見るでもない。
夏の小半日 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
長火鉢のそば徒然ぽつねんとしていると、半生はんせいの悔しかった事、悲しかった事、乃至ないし嬉しかった事が、玩具おもちゃのカレードスコープを見るように、紛々ごたごたと目まぐるしく心の上面うわつらを過ぎて行く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
なかほどともなく、上面うわつらともなく、一条ひとすじ、流れの薄衣うすぎぬかついで、ふらふら、ふらふら、……はすに伸びて流るるかと思えば、むっくり真直にを立てる、と見ると横になって、すいと通る。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
希望は、なりきっている下っ腹において、上面うわつらに出すものではない。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
根底より虚偽な人生、上面うわつらばかりな人世、終焉常暗じょうあんな人生……
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)