一閑張いつかんばり)” の例文
蝋塗りに螺鈿らでんを散らした、見事なさやがそこに落散つて、外に男持の煙草入たばこいれが一つ、金唐革きんからかはかますに、その頃壓倒的に流行つた一閑張いつかんばりの筒。
そこは青木さんの弟さんの部屋にしてあると見えて、青い羅紗らしやのかゝつた一閑張いつかんばりの机の上に、英語の辞書やインキ壺なぞが置いてあつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
例の朝寝、今起きた所と見えて昼飯の膳に牛乳がついて居た。一閑張いつかんばりの机の上には「恋の挿話」に「聖僧の罪」ゾラの小説が二冊乗つて居た。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
グツト睨み置きさて風呂にりて銘々一閑張いつかんばりの机を借り受け駄洒だじや中止紀行に取りかゝる宿の人此体このていを見て不審がる二時間ほどにして露伴子づ筆を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
わたしは読み飽いた「聖ヨハネ祭の夜」の頁をたたみこんで、暗い一閑張いつかんばりの下に、さて閉ぢようとして気づいた。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
Aさんは、「相済みません」と云つて、玩具おもちや襁褓むつきを手早く片づけた後、一閑張いつかんばりの上でしきりと筆を走らせはじめた。時々何か印刷した紙を参考にしてゐる様子だつた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
彼はげた一閑張いつかんばりの小机を、竹垣ごしに狭い通りに向いた窓際まどぎはゑた。その低い、くさつて白くかびの生えた窓庇まどびさしとすれ/\に、育ちのわるい梧桐あをぎりがひよろ/\と植つてゐる。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
上つてとつつきのふすまをあけると、二三枚戸を立てた、うす暗い部屋のまん中に、松岡の床がとつてあつた。枕元には怪しげな一閑張いつかんばりの机があつて、その上には原稿用紙が乱雑に重なり合つてゐた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)