一茎ひとくき)” の例文
旧字:一莖
「うん。そうだろう。わしは正※知しょうへんち百合ゆりの花をささげよう。大蔵大臣おおくらだいじん。お前は林へ行って百合ゆりの花を一茎ひとくき見つけて来てくれないか」
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
鏡に写った人物は、八十余りの老人で、胴服を着し、伊賀袴を穿き、夜目に燃えるような深紅の花を、一茎ひとくき右手に持っていた。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わけて、江戸むすめのおつぎには郷土人いなかびとの生活は元より、畦の野菜の一茎ひとくきまで、眼に珍しくないものはなかった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水には一片の塵芥じんかいも浮ばず、断崖には一茎ひとくきの雑草すら生立おいたってはいないで、岩はまるで煉羊羹ねりようかんを切った様に滑かな闇色に打続き、その暗さが水に映じて、水も又うるしの様に黒いのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はなもまたいろいろで、一ぽんくきに、一つしかはなかないもの、一茎ひとくきむらがってはなくもの、香気こうきたかいもの、まったく香気こうきのしないもの、そのいろにしても、紫色むらさきいろのもの、淡紅色たんこうしょくのもの
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
去年の夏、その頃住んでゐた、市中しちゆうの一日中陽差の落ちて来ないわがの庭に、一茎ひとくきの朝顔が生ひ出でたが、その花は、夕の来るまで凋むことを知らず咲きつづけて、私を悲しませた。その時の歌
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
一茎ひとくきの草でもさげすんで踏んではならぬ
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
葉雞頭の一茎ひとくき立ちぬ。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
影の、一茎ひとくき
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一個の梅干と、一茎ひとくきねぎの白根に味噌を添えたものである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)