一気呵成いっきかせい)” の例文
この歌万葉時代に流行せる一気呵成いっきかせいの調にて少しも野卑やひなるところはなく字句もしまり居り候えども、全体の上より見れば上三句は贅物ぜいぶつに属し候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
まず以上で花と実との概説がいせつえた。これは一気呵成いっきかせいふでにまかせて書いたものであるから、まずい点もそこここにあるであろうことを恐縮している。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それで語学も数学もその修得は一気呵成いっきかせいにはできない。平たくいえば、飽きずに急がずに長く時間をかける事が、少なくとも「必要条件」の一つである。
数学と語学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その代り筆がちっとも滞っていない。ほとんど一気呵成いっきかせいに仕上げた趣がある。絵の具の下に鉛筆の輪郭が明らかに透いて見えるのでも、洒落しゃらくな画風がわかる。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
椿岳は常から弱輩のくせに通人顔する楢屋が気に入らなかった、あるいは羽織の胴裏というのがしゃくさわった乎して、例の泥絵具で一気呵成いっきかせいに地獄変相の図を描いた。
その一気呵成いっきかせい的なゾンザイサというものは、やはり前とおんなじ事なので……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
尺を得れば尺、寸をれば寸と云う信玄流しんげんりゅうの月日を送る田園の人も、夏ばかりは謙信流けんしんりゅう一気呵成いっきかせいを作物の上にあじわうことが出来る。生憎あいにく草も夏は育つが、さりとて草ならぬものも目ざましくしげる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかも、その一気呵成いっきかせいの大業もまた波瀾万丈はらんばんじょうな毎日毎日であった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
横顔はとにかく中止として今度はスケッチ板へ一気呵成いっきかせいに正面像をやってみる事にした。二十日はつか間苦しんだあとだから少し気を変えてみたいと思ったのである。
自画像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
やがて「天然居士は空間を研究し、論語を読み、焼芋やきいもを食い、鼻汁はなを垂らす人である」と言文一致体で一気呵成いっきかせいに書き流した、何となくごたごたした文章である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のごとき何も別にめずらしき趣向もなく候えども、一気呵成いっきかせいのところかえって真心を現して余りあり候。ついでに字余りのこと一寸ちょっと申候。この歌は第五句字余りゆえに面白く候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
書きめて置くと、どうもよく出来ぬ。矢張やはり一日一回で筆を止めて、後は明日まで頭を休めて置いた方が、よく出来そうに思う。一気呵成いっきかせいと云うような書方はしない。
「禅学者にも似合わん几帳面きちょうめんな男だ。それじゃ一気呵成いっきかせいにやっちまおう。——寒月君何だかよっぽど面白そうだね。——あの高等学校だろう、生徒が裸足はだしで登校するのは……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
換言すれば爪懸つまがかりのいいものはない。その爪懸りのいい幹へ一気呵成いっきかせいあがる。馳け上っておいて馳け下がる。馳け下がるには二法ある。一はさかさになって頭を地面へ向けて下りてくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乗らざるにあらざるなり、ともかくも人間が自転車に附着している也、しかも一気呵成いっきかせいに附着しているなり、この意味において乗るべく命ぜられたる余は、疾風のごとくに坂の上から転がり出す
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)