一方口いっぽうぐち)” の例文
片方は大河おおかわさえぎられているから、この一方口いっぽうぐちのがれるほかには逃げ道はなく、まるで袋の鼠といった形……振り返れば、諏訪町、黒船町は火の海となっており
一方口いっぽうぐちで寝室だとばかり思込んでいたのは、飛んだ間違いで、その部屋にはほかに出口があったのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
頃は向島の花見時、一方口いっぽうぐちの枕橋近辺に其れとなく見張って居りますので、往来ゆきゝの人は立止りますくらい、文治は遥か離れて向島より知らせの来るのを待受けて居ります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まろく拡がり、大洋わたつみうしおを取って、穂先に滝津瀬たきつせ水筋みすじの高くなり川面かわづらからそそむのが、一揉ひともみ揉んで、どうと落ちる……一方口いっぽうぐちのはけみちなれば、橋の下は颯々さっさっと瀬になって
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「全体、狐ッて奴は、穴一つじゃねえ。きつと何処にか抜穴ねけあなを付けとくって云うぜ。一方口いっぽうぐちばかしかためたって、知らねえうちに、裏口からおさらばをきめられちゃ、いい面の皮だ。」
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
御米が呼びに立とうとするのを、用はないからいいと留めたまま、宗助は炬燵蒲団ぶとんの中へもぐり込んで、すぐ横になった。一方口いっぽうぐちに崖を控えている座敷には、もう暮方の色がきざしていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕はこんな重大な事を一方口いっぽうぐちで判断したくはありませんから
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)